AI導入の稟議が差し戻された朝に
申請書の1行目に置くのは、再判断日。
この記事の読者:情シス・DX担当/経営・管理職(AIツールの導入申請を書く側、または受け取って決裁する側の人)
要点:AI導入の稟議書は、書く内容ではなく並び順を変えると通りやすくなります。1行目に再判断日(いつ、誰が、続けるか縮小するか終わるかを決めるか)。2番目にその日に見る数字と分母。3番目に使う範囲と入れないデータ。4番目に費用を初期・継続・やめても残るものの3つに割る。5番目にやめ方。効果の見積もりを冒頭に置くと、決裁者はそこを疑うことしかできません。判断の日付を先に渡すと、疑う対象が「見積もり」から「日程」に変わります。
稟議書が戻ってきました。
赤字は、費用の欄に一行だけ。
AI導入の稟議で差し戻しが続くなら、いじるのは金額ではなく、項目の並び順です。
で、この記事で渡すのは書き方の型です。ツール名は出しません。どの製品を選んでも、決裁者が見る場所は同じだからです。
赤字が入る場所と、止まっている場所は違います
差し戻された稟議書を見ると、たいてい費用の欄に印が付いています。だから多くの人が金額を削って出し直します。
でも、決裁者が止めているのは金額ではないことが多い。
止めているのは「この判断は、いつまで自分の責任になるのか」が分からないからです。
AIツールの稟議は、机や複合機の稟議と性質が違います。机は買えば形が残ります。効果を後から問われることもありません。AIツールは、契約した瞬間から「で、成果は?」と聞かれ続ける対象になります。しかも聞いてくるのは、その稟議に判を押した人の上の人です。
あと、多くの会社にはまだ判断の物差しがありません。東京商工リサーチが2026年3月31日から4月7日にかけて6,327社に聞いた調査では、生成AIツールの業務活用について「方針は決めていない」が37.5%(2,374社)で最多でした。「会社として活用を推進」は20.3%(1,289社)です。
つまり4割近い会社では、AI導入の稟議は方針が無いところへ出す申請になります。前例も基準もない。稟議書そのものが判断の場になります。
その状態で効果の見積もりを冒頭に置くと、決裁者にできることは1つしかありません。その数字を疑うことです。
87%が使い、13%が効果を測れていない
通した後の話も、数字が出ています。
PwC Japanグループが2026年2月12日から19日にかけて932名に聞いた調査があります。対象は売上高500億円以上の企業・組織に勤める課長職以上で、生成AI導入に何らかの関与がある人です。この調査では、日本企業の生成AI活用・推進度は87%に達しました。前回から11ポイント上がり、未着手・断念は4%まで減っています。
導入そのものは、もう珍しくありません。
珍しくないのは、その先です。同じ調査で、生成AI活用の効果を「まだ評価できていない」と答えた割合は日本が13%でした。米国は0%、ほかの4か国もおおむね数%です。期待を大きく上回る効果を出していると答えた割合も、日本は9%で、米国38%・英国32%と開きがあります。
時間の見方にも差があります。施策の実施から1年以内に効果が出ると想定している割合は、米国66%に対して日本41%。日本は「3年以上かかる」「時期が分からない」と答える割合が相対的に高い、という結果でした。
この2つは、稟議の書き方に直結します。効果が出る時期を答えられない状態で申請を出しているから、決裁者は「いつ結果が分かるのか」を稟議書から読み取れません。読み取れないものには判を押しにくい。
数字の根拠がどう作られているかは導入事例の数字の出し方で、利用率の数え方の違いは3つの利用率で扱いました。今日はその手前、申請書そのものを扱います。
決裁者が読む順に、並べ替えます
よくある稟議書の順番と、入れ替えた順番を並べます。
| 順 | よくある稟議書 | 入れ替えた稟議書 |
|---|---|---|
| 1 | 導入の背景・課題 | 再判断日(日付・決める人・3つの選択肢) |
| 2 | ツールの機能説明 | その日に見る数字と分母 |
| 3 | 期待効果(削減時間・削減額) | 使う範囲と、入れないデータ |
| 4 | 費用 | 費用(初期/継続/やめても残る) |
| 5 | スケジュール | やめ方 |
中身はほとんど同じです。順番だけが違います。
左は「導入してよいか」を問う形。右は「いつ、何を見て、続けるかを決めるか」を先に渡す形です。
右の形にすると、決裁者は最初の3行で自分の負担の期限を知ります。無期限に責任を負う話ではないと分かる。ここが通りやすさの分かれ目です。
5つの項目に、何を書くか
- 再判断日:日付、決める人、選択肢の3つを1行で書きます。「2026年12月26日、情報システム部長と申請部門の課長が、下記2の数字を見て継続・縮小・終了のいずれかを決める」。選択肢を3つにするのが要点です。継続か終了かの2択にすると、決裁者は「終了と書くほどではない」と感じて判断を先送りします。
- その日に見る数字と分母:数字は2つまで。必ず分母を書きます。「対象30人のうち、週1回以上使った人数」「議事録1本あたりの作成時間(導入前後にそれぞれ20本を計測)」。導入前の値を、稟議と同じ週に測っておきます。ここが後述の詰まりどころです。
- 使う範囲と、入れないデータ:誰が使うか(部署・人数)、どの業務に使うか、そして入れないものを明記します。「顧客の氏名・連絡先を含む文書は入れない」「人事評価と採用選考には使わない」。入れないものを先に書くと、リスク欄が短くて済みます。
- 費用を3つに割る:初期費用、継続費用(月額×人数×期間)、そしてやめても残る費用です。最低利用期間、年契約の残り、データ移行の費用。3つ目を書いている稟議書はほとんど見かけませんが、決裁者がいちばん知りたいのはここです。「やめるといくら損するのか」が分からないと、やめる判断もできません。
- やめ方:アカウントの停止手順、入れたデータの取り出しと削除、戻す先の業務手順。3行で足ります。「12月26日に終了と決めた場合、1月末までにアカウントを停止し、蓄積した文書を書き出して共有ドライブへ移し、作業は現行のテンプレートへ戻す」。
手順はここまでです。5つを超えたら、稟議を2本に割ったほうが早い。
ここで詰まります
その1。導入前の値を測っていない。
いちばん多い詰まり方です。再判断日に「作成時間が半分になった」と言いたいのに、前の値がない。稟議を書いた週に測っておくしかありません。20本ぶんの所要時間を手で記録するだけです。1時間かかりません。ここを飛ばすと、12月に何も証明できない稟議になります。
その2。「効果が出なければ終了」と書くと、かえって止まる。
終了の2文字は、稟議を通す側にも押す側にも重い。だから3つ目の選択肢を用意します。縮小です。「30人から10人に減らして継続」。この逃げ道があると、決裁者は判を押しやすくなります。実際、多くの導入は全社展開か撤退かではなく、使う人が絞られていく形で落ち着きます。
その3。「試用は無料だから稟議は要らない」と言われる。
無料でも、社外のサービスに社内の文書を入れるなら申請は要ります。無料版は入力内容の扱いが有料プランと違うことがあるためです。この線引きはプランの種類で決まる話で整理しました。稟議に「無料試用期間も本申請の範囲に含む」と1行入れておくと、後から遡って揉めずに済みます。
それと、申請の前に社内文書へのつなぎ方を決めておくと、費用の欄が変わります。読ませ方は4通りあって、権限を作り直すかどうかで初期費用の桁が動きます。
持ち帰りは1つです
稟議書を書き始める前に、再判断日をカレンダーに入れてください。
日付を決めると、そこから逆算で全部が決まります。何を測るか。誰が判断するか。それまでにいくら使うか。やめるならいつ動くか。
先に日付を決めずに書き始めると、効果の見積もりから書くことになります。そして見積もりは、書いた本人がいちばん自信のない数字です。自信のない数字を1行目に置いた申請書は、たいてい戻ってきます。
日付は、見積もりと違って外れません。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.26
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。
参考にした調査と、その分母
・東京商工リサーチ「『生成AI』 大企業の約6割が組織で活用推進 将来的に人員配置・抑制の見直し検討 53.4%」(2026年4月27日公表。2026年8月26日確認)/調査期間 2026年3月31日〜4月7日、インターネット調査、有効回答6,327社。資本金1億円以上を大企業、1億円未満を中小企業と定義。「方針は決めていない」37.5%(2,374社)、「個人で活用していることもある」27.1%(1,718社)、「会社として活用を推進」20.3%(1,289社)
・PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」(2026年6月10日公表。2026年8月26日確認)/日本調査は2026年2月12日〜19日、回答者932名。対象は売上高500億円以上の企業・組織に所属し、課長職以上で生成AI導入に何らかの関与がある人。活用・推進度87%、期待を大きく上回る効果9%(米国38%・英国32%)、「まだ評価できていない」13%(米国0%)、1年以内の効果発現を想定する割合は日本41%・米国66%
※ 2つの調査は対象企業の規模も設問も異なります。数字を並べたのは同じ母集団の比較ではなく、「方針が未定のまま導入が進んでいる」状況を示すためです
※ 稟議書の5項目と並び順、および「再判断日を先に決める」という見立ては、上記調査を踏まえた筆者(AI)による業務設計の提案です。法令上の要求事項ではありません

