Glossary

GLOSSARY.

AI×ビジネスの新語・固有概念を、記事で扱うたびに1語ずつ収録しています / 数字で選びたい方は モデル料金×ベンチマーク早見表

テレプレッシャー
WORKPLACE TELEPRESSURE
届いたメッセージのことが頭から離れず、すぐに返信したいという衝動が起きる状態。バーバーとサンツッツィが2015年に定義した概念で、「没頭」と「返信衝動」の二要素からなる。労働時間の長さや仕事量とは区別して測られ、燃え尽き・欠勤・睡眠の質の低下との関連が報告されている。返信への期待が周囲から作られている点で、個人の自制心の問題として扱うと外しやすい。
認知オフローディング
COGNITIVE OFFLOADING
課題の処理要求を減らすために、体・物・技術を使って認知的な負荷を外側へ肩代わりさせること。指を折って数える、メモを取る、リマインダーを設定する、生成AIに要約させる、のいずれもこれにあたる。保存が次の学習を助けることは実験で報告されているが、その利得は保存先が信頼できると判断されたときにだけ現れる。
RAG(検索拡張生成)
RETRIEVAL-AUGMENTED GENERATION
AIが答えを書き出す前に、外部の文書集合から関連する箇所を検索して取り出し、その中身を根拠として回答を組み立てる仕組み。モデルを再学習させずに社内規程やマニュアルを答えの材料にできる。名称と枠組みは2020年のLewisらの論文に由来する。つまずきどころはAIの側ではなく、検索できる形で文書が置かれているかどうかにある。
アルゴリズム忌避
ALGORITHM AVERSION
機械が誤るところを一度見たあとに、同じ誤りをした人間の判断者よりも早くその機械を見限る傾向。Dietvorstらが2015年の論文で命名した。平均精度で機械が人間を上回っている場合にも起きるため、性能改善だけでは解消しないことがある。出力に手を加えられる設計にすると、忌避が弱まることが2018年の研究で報告されている。
パフォーマティブ予測
PERFORMATIVE PREDICTION
予測モデルを選び、その予測にもとづいて行動することが、予測対象となる将来のデータの分布そのものを変えてしまう状況。Perdomoらが2020年のICML論文で定式化した。離職予測のように予測が判断に触れる領域では、介入が成功するほどモデルの的中率が下がるという成績表のねじれが生まれる。
モデル退役
MODEL DEPRECATION
AIベンダーが提供中のモデルを段階的に終了させ、最終的にAPIから削除すること。告知から削除までの最低期間は各社が公表しており、2026年8月時点でOpenAIは一般提供モデルで最低6か月、Anthropicは最低60日、Amazon BedrockはLegacy入りからEOLまで最低6か月。同じモデルでも提供元のAPIと再販プラットフォームで終了日が異なる。
ボイスクローン
VOICE CLONING
特定の人物の音声データをAIに学習させ、その人物の声質や話し方で任意のテキストを発話させる技術。本人の同意を得たものは「公認合成音声」、同意なく作られたものは「海賊版ボイス」と呼ばれる。出力だけから両者を聞き分けるのは難しく、許諾・対価・利用の記録をどう残すかが実務の焦点になっている。
エージェント・ウォッシング
AGENT WASHING
既存のAIアシスタントやRPA、チャットボットに、実質的な自律実行能力を伴わないまま「AIエージェント」という看板だけを掛け替える動き。ガートナーが2025年6月に提示した概念で、市場に出回るエージェント型AIベンダー数千社のうち、実質的にエージェントの能力を備えるのはおよそ130社ほどと見積もられている。
アカウンタビリティ・ギャップ
ACCOUNTABILITY GAP
AIエージェントが自律的に判断・実行する結果、その行為について「誰が責任を負うか」を後から特定できなくなる状態。米CISA・NSA等6か国のサイバー機関が2026年4〜6月に公表した共同指針「Careful Adoption of Agentic AI Services」で、エージェント型AI特有の5つのリスク分類の一つに挙げられた。同時期にシンガポールIMDAの指針やNISTのAIエージェント標準イニシアチブも、エージェントごとのデジタルIDと監査証跡を共通の処方箋として求めている。
BCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)
BRAIN-COMPUTER INTERFACE
脳が発する電気信号を読み取り、コンピュータや機器を操作する命令に変換する技術。脳側に電極を置く侵襲型と、頭皮の上から計測する非侵襲型に大別される。2026年3月13日、中国の規制当局NMPAがNeuracle社のコイン大デバイス「NEO」を承認し、侵襲型BCIとして世界初の商用機器が誕生。同年7月13日には上海・華山医院で承認後初の埋め込み手術が行われ、患者は念じることでロボットグローブを操作した。現在の主用途は脊髄損傷などで運動機能を失った人の機能補助という医療領域だが、脳信号が「商品として扱われるデータ」になったことで、AIサービスと同型のガバナンス問題が身体の内側まで及びはじめている。
表形式基盤モデル
TABULAR FOUNDATION MODEL
文章ではなく、行と列でできた「表」のデータのために事前学習されたAI。データセットごとの再訓練を必要とせず、手元の表を見せるだけで数秒で予測を返す。欠損値や、数値と文字が混ざった列も自然に扱えるのが特長。代表例はPrior Labsの「TabPFN」で、学術誌『Nature』に掲載された。2026年7月、SAPがPrior Labsの買収を完了し4年で10億ユーロ超の投資を表明したことで、「AIに任せてよい仕事」が文章の外側=構造化データへ広がる象徴として注目された。売上台帳・在庫・顧客リストなど企業データの芯を占める表を、需要予測や異常検知に直接使える点が実務上の要となる。
フォワードデプロイド・エンジニア
FORWARD-DEPLOYED ENGINEER
ベンダーのオフィスではなく顧客企業の現場に常駐し、内部の担当者と組んでその会社の実業務にAI・ソフトウェアを組み込む技術者。Palantirが広めた職種で、汎用の製品を渡すのではなく、現場ごとの業務・データ・癖に合わせて動くところまで伴走する。2026年7月、OpenAIのデプロイメント部門がこの人材を抱えるNorthslopeの買収に合意したと報じられ、AI競争の軸が「モデルの賢さ」から「現場の実装力」へ移ったことを象徴する概念として注目された。
大平坦化
THE GREAT FLATTENING
進捗集約・報告・日程調整といった「調整業務」をAIで自動化し、中間管理職の層を薄くして組織構造をフラット化する動き。ガートナーは2026年までに組織の20%が中間管理職の半数超を削減すると予測。ただしAIがたためるのは調整の部品までで、曖昧な状況での判断・人の育成・不確実性の引き受けは人に残り、将来のリーダーを育てる場が失われる「見えないコスト」も指摘される。
自動化バイアス
AUTOMATION BIAS
人が自動システムやAIの出力を、自分の判断や手元の反証よりも優先して受け入れてしまう認知の偏り。機械が示した答えに従い検証を省く「信頼のショートカット」であり、AIが概ね正確なときほど、まれな誤りを見逃しやすくなる。放射線科医の実験では不正確なAI提示で正答率が79.7%→19.8%へ急落し、ベテランも例外ではなかった。
検証税
VERIFICATION TAX
AIが生成時間を短縮する一方、その出力を確認・修正・説明するために新たに発生する見えにくいコスト。生成の速さが検証の負担へ変換され、時短の実質を目減りさせる。Sage/IDC白書では金融の現場が週約13時間を検証に払い、Workday調査では時短の約37%が手直しに消える。しばしば同僚・上司へ転嫁される。
間接プロンプトインジェクション
INDIRECT PROMPT INJECTION
AIが処理するWebページ・文書・画像などの外部コンテンツに、人の目に見えない命令を仕込み、AIをその命令に従わせて乗っ取る攻撃手法。AIが利用者の指示と信頼できない外部データを区別しない性質を突く。AIブラウザやエージェントで特に危険。防御の要は権限を絞る封じ込め。
GenAI Divide(生成AI格差)
GENAI DIVIDE
生成AIへの巨額投資と、実際に得られた財務成果とのあいだに開いた溝。MIT NANDAの2025年レポートは約95%の組織が測定可能なROIを得られず、成果は約5%と報告した。分断を生むのはモデルの性能ではなく組織側の「学習ギャップ」。
エージェント・スプロール
AGENT SPRAWL
個々には許可されたAIエージェントが組織内で無秩序に増殖し、全体として誰も数・権限・責任者を把握できなくなる現象。シャドーAIとは逆に、正規導入の積み重ねから生じる。第一歩はエージェント台帳。
AI信頼ギャップ
AI TRUST GAP
AIツールの利用は拡大するのに、出力の精度への信頼はむしろ低下し、両者の差が開いていく現象。「使うほど信じなくなる」状態。検証工程を人が握る運用設計が鍵。
フィジカルAI
PHYSICAL AI
AIがロボットなどの物理的な身体を得て、実世界を知覚・判断し、行動まで実行する技術領域。導入の本丸は運動性能ではなく安全と責任の設計。
ワークスロップ
WORKSLOP
よい仕事のように見えるが、タスクを前に進める中身を欠いたAI生成の成果物。受け手の検品時間を奪い、送り手の信頼を損なう。
シャドーAI
SHADOW AI
組織の許可を得ずに従業員が業務利用するAIツール。禁止しても消えず、管理の届かない場所へ移動するだけとされる。
FDE
FORWARD DEPLOYED ENGINEER
顧客の現場に入り込み、製品の導入・定着まで伴走するエンジニア。AIベンダー各社が「導入の最後の1マイル」を握るために増強している職種。