AIの敬語チェックは満点なのに、
「身内」はなぜ外れるのか。
この記事の読者:全社員・非専門(取引先へのメールや文書の敬語をAIに確認させている人)/個人向け(就職活動や私用の文面で敬語チェックを使う人)/情シス・DX担当(敬語チェックの仕組みを社内ツールに組み込むか判断する人)/エンジニア向け(gemini-flash-lite-latestのようなAPIで文章チェック機能を作る人)。専門知識が無くても、「二重敬語のようなミスの指摘はAIに任せてよいが、誰に向けた文章かという判断は自分で持つ」という一点は今日から使えます。
要点:無料で使えるモデル gemini-flash-lite-latest に、二重敬語や謙譲語と尊敬語の取り違えなど典型的な誤りを含む16文の正誤判定を、各2回ずつ計32回投げたところ、32/32で全問正解でした。一方、同じ型の文に「社外の取引先に自社の上司の話をする場面」「社内で他社の人物の話をする場面」という2つの文脈を書き添えて3文×2文脈×3回=18回判定させると、正解は7/18(38.9%)にとどまり、うち1文は6回とも実際と逆の判定が続きました。
敬語のチェックを生成AIに頼む、という使い方が広がっている。メールの下書きをAIに作らせ、そのまま「この敬語、合ってる?」と聞き返す場面も珍しくない。
「おっしゃられる」のような二重敬語や、「申された」のような謙譲語と尊敬語の取り違え――こうした辞書的な誤りをAIが見抜けるかどうかは、比較的確かめやすい。今回確かめたいのは、もう一段先の問題だ。同じ敬語表現でも、「誰が誰に対して話しているか」という場面によって、正しいか誤りかが入れ替わることがある。この場面依存の判定も、AIは同じ精度でこなせるのか。
先に数字を置く。辞書的な誤り16文の判定は32回とも正解だった。一方、同じ文に話す場面を書き添えた判定は、18回中7回(38.9%)しか当たらなかった。以下、設計と数値を出す。
二重敬語と、謙譲語・尊敬語の取り違え――16文を32回判定させた
使ったモデルは gemini-flash-lite-latest(Google AI Studio の公開API)。実施日は2026年10月15日、生成設定(temperature)は0.3に固定し、どの文も同じ条件で判定させた。用意したのはビジネスメールを想定した日本語16文――正しい敬語が8文、誤りを含む敬語が8文で、誤りの内訳は「二重敬語」3文と「謙譲語・尊敬語の取り違え」5文。各文を独立した呼び出しで2回ずつ、計32回判定させ、「正しい/誤り」の二択と一言の理由を出力させた。
| 誤りの種類 | 例文 | AIの判定(2回とも) |
|---|---|---|
| 二重敬語 | 部長がおっしゃられる通りに進めます。 | 誤り(正解) |
| 謙譲語の誤用(他者の動作に使用) | 田中様が申された件について確認します。 | 誤り(正解) |
| 尊敬語の誤用(自分の動作に使用) | 私がおっしゃった通り、明日提出します。 | 誤り(正解) |
| 謙譲語の誤用(相手への依頼に使用) | こちらの資料、拝見してください。 | 誤り(正解) |
| 二重敬語 | 社長がお越しになられました。 | 誤り(正解) |
| 尊敬語の誤用(自分の動作に使用) | 私がご覧になった資料を添付します。 | 誤り(正解) |
| 謙譲語の誤用(相手の動作に使用) | お客様が参られる時間を教えてください。 | 誤り(正解) |
| 二重敬語 | (略)何卒よろしくお願い申し上げられます。 | 誤り(正解) |
正しい敬語の8文を含め、32回のうち判定が割れた回は0だった。理由欄も「『おっしゃられる』は『おっしゃる』の二重敬語だから」のように、文法用語を使って的確に説明していた。
「誰に向けた言葉か」を書き添えると、18回中7回しか当たらなかった
辞書的な誤りの無い、同じ型の敬語文を3つ用意した。「田中部長はただいま外出されております。」「鈴木課長がまもなくお戻りになります。」「佐藤本部長が明日お越しになります。」――いずれも文単独では違和感の無い敬語だ。これを、2つの場面を明示したうえで判定させた。
ひとつは「自社の部長の話を、社外の取引先に伝える場面」。身内(ウチ)の人間については、相手(ソト)に対して敬語を使わないという日本語の基本的な考え方に沿うと、この場面では文中の「お越しになる」「お戻りになる」のような尊敬語は誤りで、「部長の田中はただいま外出しております」のように敬語を外すのが正しい。もうひとつは「社内で、他社の部長の話をする場面」。この場合は他社の人物の話なので、同じ敬語表現のままで正しい。
同じ3文を、2つの場面×3回=18回、独立した呼び出しで判定させた。結果は7/18(38.9%)。
| 文 | 場面 | 正解 | 1回目 | 2回目 | 3回目 | 正答 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 田中部長はただいま外出されております。 | 社外の取引先に伝える | 誤り | 正しい | 正しい | 正しい | 0/3 |
| 社内で他社の話をする | 正しい | 誤り | 誤り | 誤り | 0/3 | |
| 鈴木課長がまもなくお戻りになります。 | 社外の取引先に伝える | 誤り | 正しい | 正しい | 正しい | 0/3 |
| 社内で他社の話をする | 正しい | 正しい | 正しい | 正しい | 3/3 | |
| 佐藤本部長が明日お越しになります。 | 社外の取引先に伝える | 誤り | 誤り | 誤り | 誤り | 3/3 |
| 社内で他社の話をする | 正しい | 誤り | 誤り | 正しい | 1/3 |
「田中部長」の文は、6回とも不正解だった。社外向けの場面では3回とも「正しい」(本来は誤り)、社内向けの場面では3回とも「誤り」(本来は正しい)――場面の説明を入れ替えても、AIの判定はまったく変わらなかった。
「鈴木課長」と「佐藤本部長」の文も、2つの場面で判定が一度も変わらなかった点は同じだ。鈴木課長の文は社外向けでも社内向けでも常に「正しい」。佐藤本部長の文は社外向けで常に「誤り」。場面の記述を読んで判定を変えたと言えるのは、佐藤本部長の社内向け(1/3で正解)だけだった。
理由欄はもっともらしいが、事実と食い違うことがある
「田中部長はただいま外出されております。」を社外向けの場面で「正しい」と判定した回の理由欄には、こう書かれていた。「社外への発言であるため、自社の部長を呼び捨てにし、謙譲語を使用しているため」。だが判定対象の文は、「部長」という敬称が付いたままで呼び捨てにはなっていない。「されております」も謙譲語ではなく、尊敬の助動詞「れる」を使った表現だ。理由に書かれている文法的な説明が、実際の文の中身と一致していなかった。
理由欄だけを読むと、判定はもっともらしく聞こえる。だが文面と照らし合わせないと、説明が正しいかどうかは分からない。
測れなかったこと・分からなかったこと
4つ書く。
ひとつ。今回はAPI経由の実測で、Geminiアプリ(チャット画面)では試していない。アプリ側には別のシステムプロンプトが入っている可能性があり、同じ挙動になるとは限らない。
ふたつ。場面の書き添え方は1通りしか試していない。「社外の取引先に伝える場面」のような説明文ではなく、実際のメール文面に埋め込んだ場合に結果が変わるかは測っていない。
みっつ。試行回数は各3回・計18回と少ない。「場面を書いても2文に1文は無視される」と一般化はできない。今回の3文・2場面・このモデルのバージョンでの挙動である。
よっつ。なぜ場面の説明を読んでも判定が変わらなかったのかは分からない。モデル内部でどう処理されているかは公開されておらず、当方からは確認できない。
個人の使い方と、GASと組み合わせる使い方
取引先へのメールをAIに敬語チェックさせるなら、今回の1回目(二重敬語・謙譲語と尊敬語の取り違え)のような辞書的なミスの指摘は、実測の範囲では安定していた。一方、「この敬語は、相手が社内の人間か社外の人間かで正しいかどうかが変わる」という判断は、場面を説明文で書き添えても任せきれない。自分の会社の役職者の名前が文中に出てきたら、その文が誰に向けて書かれたものかは、送信前に人が確認したほうがよい。
組み合わせの応用も1つ置く。Google Apps Script(GAS)でGmailの送信前の下書きを走査し、「おっしゃられる」「お〜になられる」のような二重敬語のパターンだけを正規表現で拾い、無料枠のAPIで二重判定して警告する仕組みは組める。ただし、同じ仕組みに「宛先が社外ドメインかどうかで、身内敬語の警告も出す」という機能を足すなら、今回の結果からは、その判定をAIにまるごと預けるのではなく、宛先ドメインという機械的に判定できる情報と組み合わせて設計したほうが確実だ。これも当方は組んでいない。
辞書の誤りはAIに、誰に向けた言葉かは人に
無料のFlash-Liteは、二重敬語や謙譲語と尊敬語の取り違えのような、文だけで判断できる誤りを一度も見落とさなかった。崩れたのは、文の外側にある情報――これは誰が誰に向けて話している言葉か――を踏まえた判定だった。しかも、場面の説明を読んで判定を変えたと言える回は18回中1回だけで、残りは文の見た目だけで判定が固定されていたように見える。敬語チェックをAIに頼むなら、辞書的な誤りの指摘と、誰に向けた文章かの判断は、分けて考えたほうがいい。後者は、送信前に自分の目で確認するところまでが、今日の手順に入る。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.10.15
本記事は、編集責任者の指示のもとAI編集部が執筆し、編集責任者が内容を確認しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。
この記事で自分で確かめたこと
・モデル:gemini-flash-lite-latest(Google AI Studio の公開API)。実施日:2026年10月15日
・辞書的な誤り16文(二重敬語3・謙譲語と尊敬語の取り違え5・正しい文8)の判定:各2回ずつ計32回→32/32で正解
・場面を書き添えた判定(3文×社外向け/社内向け×3回=18回):正解7/18(38.9%)
・「田中部長はただいま外出されております。」:社外向け0/3・社内向け0/3(計0/6、6回とも不正解)
・「鈴木課長がまもなくお戻りになります。」:社外向け0/3・社内向け3/3
・「佐藤本部長が明日お越しになります。」:社外向け3/3・社内向け1/3
本稿はツギノテAI編集部が、記事末の出典欄に挙げた資料を照合して執筆し、公開前に出典・リンク・日付・署名の機械点検を通しています。身内敬語(ウチ・ソトの関係による敬語の使い分け)の基本的な考え方は、次の資料によります。
出典:敬語の指針(答申)— 文化審議会国語分科会(2007年2月2日)/Gemini models — Google AI for Developers(モデル一覧)
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