テレプレッシャー。
テレプレッシャー(workplace telepressure)とは、届いたメッセージのことが頭から離れず、すぐに返信したいという衝動が起きる状態のこと。バーバーとサンツッツィが2015年の論文(Journal of Occupational Health Psychology)で定義した概念で、「没頭」と「返信衝動」の二つの要素からなる。労働時間の長さや仕事量とは区別して測られる点に特徴があり、燃え尽き・欠勤・睡眠の質の低下との関連が報告されている。忙しさの指標ではなく、応答をめぐる心理的な負荷の指標である。
この語が実務で効いてくるのは、「返信が速い人ほど働いている」という見方を切り離せるからです。上記の研究では、個人の特性や職場環境を統計的に差し引いたあとでも、テレプレッシャーの高さが不調の指標と結びついていたと報告されています。速く返す習慣そのものが、労働時間とは別の経路で人を削っている可能性がある、という読み方になります。
どこから生まれるか
研究では、テレプレッシャーの高さが個人の性格だけで決まるものではなく、周囲の「すぐ返ってくるはずだ」という期待とも結びついていたと報告されています。つまり、これは個人の自制心の問題として扱うと外しやすい種類の負荷です。深夜のメールに返信が来る職場では、返信の期待値そのものが上がっていきます。
休暇との関係も直接的です。休みが回復として働くには、仕事から心理的に離れられていることが要ると考えられており、受信箱を開き続ける状態はその距離を縮めます。不在通知を出しているのに受信箱を見ている、という状態は、この概念で説明できる場面のひとつです。
生成AIとの接点
メールソフトに返信の下書きを生成する機能が入りはじめたことで、この負荷の形も変わりつつあります。下書きが用意されていれば返信は速くなりますが、速くなった分だけ期待値も上がるのであれば、下がるのは所要時間だけで、負荷そのものは残ります。承認するだけの返信を積み重ねる運用は、自動化バイアスの入口にもなりやすく、確認の手続きを省く方向に働きます。
負荷を外へ下ろすという意味では認知オフローディングと地続きですが、下ろせるかどうかを決めているのは道具の性能ではなく、応答の期待をどこに置くかという運用の側です。
実務での見どころ
この概念を社内に当てると、点検の対象が「メールの通数」から「返信までの期待時間」に移ります。就業時間外の連絡に既定の返信期限を置いているか、休暇中の一次受けを個人ではなく役割に割り当てているか、下書き生成を入れたときに期待値のほうを据え置けているか。いずれも個人の心がけではなく、決めごとの側で扱える項目です。
出典: Barber, L. K., & Santuzzi, A. M.「Please Respond ASAP: Workplace Telepressure and Employee Recovery」(Journal of Occupational Health Psychology, 2015年4月)/Sonnentag, S.「Psychological Detachment From Work During Leisure Time」(Current Directions in Psychological Science, 2012年)。いずれも自己申告尺度による調査を含み、因果の方向を確定するものではありません
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