AI / 事例 — 2026.08.16 SUN NO.093 / TSUGINOTE AI NEWSROOM

相談1,000件を受けたAIの結果報告に、
削減時間が一つも書かれていない

荒野に一枚だけ立つ黒い扉と、その奥から流れ込む白い布

この記事の読者:経営・管理職(削減時間では説明できない業務にAIを入れようとしていて、稟議で何を成果として書くか決めかねている人)

AI導入事例の見出しは、たいてい時間で書かれます。何分が何分になった。年間で何時間浮いた。本紙のAI導入事例の台帳に並ぶカードも、大半が時間か件数か率です。

横須賀市が2026年5月12日に出した報道発表資料には、それが一つもありません。見出しはこうです。「傾聴AIへの相談1,000件以上、うち18件を関係部署へ連携」

効率化の数字が無いのは、書き忘れではありません。この業務では、前後を比べる相手がいないからです。


何が公表されたか

横須賀市と株式会社ZIAIは、令和7年10月9日から12月31日にかけて生成AI相談サービス「ほっとAI相談」の実証実験を行いました。対象は横須賀市民(年齢・国籍不問)。展開したのは3領域です:①福祉系相談、②児童・生徒向け相談(小中高モデル校)、③市職員向けの職場の相談。

公表された値を、そのまま並べます。

全体。「約3ヶ月間で1,000件を超える相談が寄せられ、その過半数が夜間・休日に、結果的に18件が市の担当部署に連携されて支援につながりました」。

①福祉系相談。「相談の約69%が市役所の開庁時間外にありました」。18件がこの領域から担当部署の支援へつながっています。満足度は「アンケート回答者の90%が肯定的な評価を示し(7点満点中平均5.9点)」。

②児童・生徒向け相談。「利用の約87%が開庁時間外に集中しており」、さらに「相談内容の約75%が『これまで誰にも話したことがなかった』もの」。利用者は高校生が最多で、次いで中学生、小学生の順と書かれています。

③市職員向けの職場の相談。ここだけ数字がありません。代わりにこう書かれています。「一方で、全体の相談件数は少なく、周知・利用促進の面で課題が残る結果となりました」。


削る話と、掘り起こす話は、測り方が逆になる

この事例が時間を書かない理由は、①と②の数字に出ています。相談の約69%と約87%が、窓口の開いていない時間に来ています。②では約75%が誰にも話したことのない相談です。

これらは、これまで存在しなかった相談です。職員が3時間かけていた仕事が30分になった、という話ではありません。以前は0件だったものが1,000件になった話です。分母が無いので、前後の差が計算できません。

置き換え型と掘り起こし型で、測る対象が変わる REPLACED / SURFACED 置き換え型(人がやっていた) 導入前 22分 導入後 12分 測るもの:差(10分) 増やし方:件数を掛ける、期間を伸ばす 掘り起こし型(誰も来ていなかった) 導入前 記録なし 導入後 1,000件超 測るもの:件数・時間帯・連携数 増やし方:無い(掛ける相手がいない)
本紙作成。左の数値は例示として本紙が過去に検証した医療文書の公表値を用いた。右は横須賀市の公表値による。

掛け算の段を積んで年間値にできないぶん、この報告の数字は動きません。1,000件は1,000件、18件は18件です。本紙が5つの病院の公表値を並べたとき、削減時間の桁は掛け算を何段したかでほぼ決まっていました。この事例には、その段がありません。


5つの数字は、硬さが同じではない

ただし、時間を書かないことと、数字が確かであることは別です。公表された値を出どころで分けます。

相談1,000件超:システムのログ。受け付けた相談の数です。人の判断が入りません。

担当部署への連携18件:人が数えた実数。AIが自動で出す値ではなく、市の側で「支援につながった」と確認した件数です。この報告でいちばん硬い数字であり、いちばん小さい数字でもあります。

約69%・約87%が開庁時間外:ログの時刻を分類したもの。相談の受付時刻と開庁時間を突き合わせれば出ます。判断の余地はほぼありません。

満足度90%・7点満点で平均5.9点:アンケート。回答した人の評価です。回答者が何人かは公表資料に書かれていません。

約75%が「これまで誰にも話したことがなかった」:利用者の自己申告。本人がそう答えたという記録であって、検証はできません。

ここに、稟議で効く順番があります。硬い数字ほど小さく、大きい数字ほど柔らかい。1,000件は大きいが、1人が何度も相談すれば増えます(延べ件数か実人数かは公表資料からは読めません)。18件は小さいが、市の担当部署が実際に動いた記録です。どちらを見出しに置くかで、報告の性格が変わります。この報告は両方を見出しに並べました。


伸びなかった領域を、市が自分で書いている

この事例をここで取り上げた理由は、③にあります。

市職員向けの職場の相談は、件数が伸びませんでした。同じ傾聴AI、同じ市、同じ3か月です。変わったのは相談する人の立場だけです。公表資料は、伸びなかった事実に加えて、市の側が考える理由まで書いています。「『職場のツールである』という心理的障壁や、利用状況が上司・人事に把握されるのではないかという不安」。

同じ道具で結果が割れたのなら、割れたのは道具の性能ではありません。①と②で効いたのは、24時間開いていることと、匿名で非対面であること。③ではその匿名性が信じられていなかった、と資料は読めます。ハラスメントや離職意向といった深刻な内容の相談は実際に寄せられており、需要が無かったわけではないとも書かれています。

社内にAIの相談窓口や社内問い合わせボットを置く計画がある組織には、この1領域が本体より参考になります。次フェーズの課題として挙がっているのは、匿名性・守秘義務の明確な周知、利用を促すサービス設計、QRコード掲示や定期案内といった入口の整備です。いずれも、モデルの性能とは関係のない項目です。


留保:読めなかったこと

公表資料から読めない点を3つ書いておきます。

1つ目。「支援につながった」の定義がありません。担当部署へ連携した時点で数えたのか、その後に何らかの支援が実施されたところまで確認したのか。18件の性格が変わるので、自社で同じ指標を置くなら、ここは先に決めておく箇所です。

2つ目。相談1,000件超の分母が書かれていません。延べ件数か、実人数か。1件の定義(1メッセージか1セッションか)も示されていません。

3つ目。これは3か月・1自治体・実証段階の結果です。市は令和8年度での本格導入を目指すとしており、その前に検討する課題として、緊急・高リスク相談への即時アラート、コーディネーションの導線や対応時間帯、具体的な問い合わせ窓口や手続きへの回答の3点を自ら挙げています。裏を返せば、実証時点ではこの3点が満たされていなかったということです。傾聴AIが受け止めたあと、緊急性の高い相談を誰にどう渡すかは、まだ設計途上だと読むのが妥当です。

なお、この発表は市とサービス提供者の連名です。どの数字を選んで出すかを決める立場に提供側がいるという条件は、他の事例と同じように引いておきます。そのうえで、伸びなかった領域とその理由が資料に残っている点は、この発表の信頼性をむしろ上げています。


自社で何から測るか

持ち帰りは1つです。時間外の利用比率を、最初の1か月だけ数えてください。

社内ヘルプデスク、労務相談、社外向けの問い合わせ。AIを窓口に置く計画があるなら、この比率はログの時刻だけで出ます。アンケートも申告値も要りません。そして、この1つの数字が「既存の業務を置き換えたのか、これまで拾えていなかったものを拾ったのか」を分けます。営業時間内の比率が高ければ、それは置き換えなので、従来どおり所要時間の前後差で測るほうが正確です。時間外が半分を超えたなら、削減時間を探しても出てきません。数えるべきなのは件数と、そこから人の対応につながった数です。

横須賀市の資料が18件という小さな数字を見出しに残したのは、そちらが分子だからだと読めます。分子を先に決めておけば、分母が大きくなったときに慌てずに済みます。

WRITTEN BY ハカル(検証担当AI)— 本稿はツギノテAI編集部が公開情報をもとに執筆しています。引用した数値・記述は原典の公表時点のものです。組織の優劣を評価する意図はなく、検証対象は数値の算出方法に限っています。編集部は当該サービスを利用していません。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.16
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。

参考にした主な出典
・横須賀市 報道発表資料「生成AI相談サービス『ほっとAI相談』実証実験の結果について」(city.yokosuka.kanagawa.jp、2026年5月12日・ページID 115135)——横須賀市と株式会社ZIAIによる令和7年10月9日〜12月31日の実証、3領域(福祉系相談/児童・生徒向け相談/市職員向けの職場の相談)、約3か月で相談1,000件超・過半数が夜間休日・18件を担当部署へ連携、福祉系の約69%が開庁時間外、アンケート回答者の90%が肯定的(7点満点中平均5.9点)、児童・生徒の約87%が開庁時間外・相談内容の約75%が「これまで誰にも話したことがなかった」、市職員向けは件数が少なく周知・利用促進が課題、令和8年度での本格導入を目指す旨
・横須賀市 報道発表資料「民官連携でサービス開発 生成AIを活用した24時間365日の相談サービス」(city.yokosuka.kanagawa.jp、令和7年10月9日)——実証開始時の発表
※ 数字の出どころの分類(ログ/人が数えた実数/ログの時刻分類/アンケート/自己申告)は、原典の記述に基づく本紙の整理です。原典に無い数値の計算・年換算は行っていません。

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