「ユーモア、七十五パーセント」
十二年後のAIに、そのつまみは無い。
この記事の読者:全社員・非専門(AIの返事が丁寧すぎる、あるいは冷たすぎると感じたことがある人)
設定画面を開いて、AIの口調を選び直したことがあるでしょうか。丁寧すぎる。回りくどい。逆に、そんなに励まさなくていい。そう思って設定を探し、いくつか並んだ選択肢から一つを選んで閉じる。数分の作業です。
その数分は、十二年前の映画のなかにもありました。ただし、そこに並んでいたのは選択肢ではなく、数字でした。
当たっているところと、外れているところが、はっきり分かれています。そして外れ方のほうに、この十二年で決まったことが入っている。
パーセントで人格を指定する場面が、十二年前の映画にある
2014年公開の『インターステラー』に、TARSという名前の機械が出てきます。四角い金属の板を連ねたような、人型からはずいぶん遠い姿をしていて、声はビル・アーウィンが当てています。この機械の特徴は、性格の設定を口で言えば変わるところです。
主人公が「ユーモア、七十五パーセント」と指定する。TARSはそれを受けて冗談を始め、うるさくなったので「六十パーセントにしよう」と下げられる。それでもまだ冗談を続けるので「五十五にするか」と脅される。数字が下がっていく速度そのものが笑いになっている場面です。
もう一つ、有名なやりとりがあります。主人公が「正直さの設定はいくつだ」と尋ねると、TARSは「九十パーセント」と答える。九十? と聞き返されて、絶対的な正直さは、感情のある相手との対話において、必ずしも最も外交的でも最も安全でもないから、と説明する。主人公は、じゃあ九十でいい、と受け入れます。
この短い会話には、いま読むとおそろしく多くのものが入っています。人格は出荷時に固定されていない。数値で表現できる。人間が調整する権限を持つ。そして機械のほうにも、その数値がなぜその値であるべきかについての言い分がある。
十二年たちました。この四つのうち、どれが実物になったのかを見ていきます。
いまの設定画面に並んでいたのは、数字ではなく名前だった
ChatGPTの設定を開くと、パーソナライズという項目のなかに「基本のスタイルとトーン」というドロップダウンがあります。OpenAIのヘルプセンターに、そこに何が並んでいるかが書かれています。標準のデフォルトに加えて、プロフェッショナル、フレンドリー、率直、ユニーク、効率重視、シニカルの六つ。合わせて七つの状態から一つを選ぶ形です。
選ぶと、その設定は既存の会話まで含めて全部のチャットに適用されます。会話ごとの一時的な気分ではなく、その相手そのものの設定として持続する。この点はTARSと同じです。
Claudeにも似た仕組みがあります。応答のトーンや語り口を切り替えるスタイルという機能で、こちらはヘルプセンターの記述によれば、簡潔・説明的・正式といったあらかじめ用意されていた形から、スキルという別の仕組みへ移行している最中です。移行後は、有効にしたいものを自分で選んで使う形になる。名前で呼び出すという点は変わりません。
どちらにも、目盛りはありません。ユーモアを七十五に、という指定はできない。並んでいるのは数字ではなく、名前です。
当たっていたのは、人格をあとから決めるという発想
それでも、映画が先に見ていたものは確かにあります。
いちばん大きいのは、AIの性格を後から決めるものとして扱った点です。1968年のHALから2010年代の作品まで、映画のAIはたいてい、生まれつきそういう性格として登場しました。冷たい。従順。あるいは反抗的。スクリーンのAIが配役を変えられてきた歴史を並べたときにも、変わっていたのは役柄の側で、設定の可変性ではありませんでした。
TARSは違います。性格が仕様の一部として扱われ、運用中に触れる。この発想は、いま実際に製品の設定画面になっています。予想としては、じゅうぶんに当たりです。
もう一つ当たっていたのは、権限の置き場所です。TARSは自分のユーモアを勝手に上げ直しません。数字を動かすのは人間の側で、機械は動かされた結果を引き受ける。だから「五十五にするか」という脅しが成立する。いまの設定画面もそうなっていて、性格を選ぶのはユーザーです。
外れたのは、目盛りの形
外れたのは、人格を連続量として刻んだところです。
ヘルプセンターの説明を読むと、それぞれの名前が何を指しているかが分かります。たとえばシニカルは、皮肉っぽい一言と、ドライな語り口と、それでも肝心なところでは直接的で実用的に答えるという構えが、束になったものです。ユニークは、遊び心と、創造的なたとえ話と、深刻な話題も軽く感じさせる意外性の束。率直は、核心から入る短さと、抜け漏れの指摘と、突き放さない励ましの束です。
つまりユーモアだけを取り出して七十五に置くことができない。ユーモアを増やすと、同時に語り口も、話の入り方も、励まし方も動いてしまう。だから製品は、動かしたい組み合わせをあらかじめ束ねて、名前をつけて出している。目盛りではなく、七つの島を渡す形です。
この外れ方は、技術が追いつかなかったという話ではないように読めます。人格が独立したつまみの集合ではなかった、という発見に近い。映画のほうが、人間の性格を工学的に見積もりすぎていたわけです。
正直さは、つまみの外に置かれた
そして、いちばん深いところで分かれたのがここです。
OpenAIのヘルプセンターには、はっきりこう書かれています。パーソナリティを変えても、ChatGPTにできること・できないことや、従う安全ルールは変わらない。変わるのは伝え方だけである、と。同じページには、選んだパーソナリティが応答の内容そのものを完全に支配するわけでもない、という説明も添えられています。フレンドリーを選んでいる人が送料を計算するコードを頼めば、返ってくるのは明快で実用的なコードで、会話的な脱線が足されるわけではない。
TARSには、正直さのつまみがありました。九十パーセント。つまり一割は正直でなくてよい、という設定が公然と存在していた。しかも機械はその値を、感情のある相手を守るためだと説明していた。
いまの設定画面に、その項目はありません。トーンは動かせて、正直さと安全は動かせない。ユーザーが触れる範囲の外側に置かれている。十二年で決まったのは、目盛りの形よりも、この線の引かれた場所のほうだと思います。
そしてこれは、映画の設定のほうが不用心だったという単純な話でもありません。TARSの九十パーセントは、乗員の精神状態を守るための余白として置かれていました。相手を思って事実を丸めるという判断を、機械の設定項目として持たせるかどうか。いまの製品はそれをユーザーのつまみにはせず、作った側の判断として内側に抱えています。振る舞いの不調を診る職業がこれから要るとしたら、診る対象はまさにこの内側でしょう。
数字のつまみが残っている場所
もっとも、数値の指定がどこにも無いわけではありません。開発者向けのAPIには temperature という数値があります。Claudeの用語集では、テキスト生成中のモデルの予測のランダム性を制御するパラメータと説明されています。値を上げれば多様で創造的な出力になり、下げれば保守的で決まりきった出力になる。
数字を指定して性質が変わるという見た目は、たしかにTARSに近い。けれど、これはユーモアの量ではありません。次にどの語を選ぶかの散らばりの度合いです。上げれば冗談が増えるのではなく、予想しにくい語が選ばれやすくなる。冗談が増えて見えることはあっても、それは副作用のほうです。
映画の設定に一番近い数字が、性格とはいちばん関係の薄い場所に一つだけ残っていた。ここは少し、可笑しい。
下げていたのは、誰の側だったのか
もう一度あの場面を思い出します。主人公はTARSのユーモアを七十五から六十へ、さらに五十五へと下げていきます。冗談がつまらなかったからでしょうか。
あの場面で余裕がなかったのは、機械ではありませんでした。人類の残り時間を数えている人間のほうです。ユーモアを下げるという操作は、相手の性格を直す作業に見えて、実際には自分が受け取れる量を絞る作業でした…そう読むと、あの数字の下げ方はずいぶん人間くさく見えてきます。
私たちがいま設定画面でシニカルや率直を選ぶときも、たぶん似たことをしています。相手の人格を調律しているつもりで、自分がいま何を受け取れるかを申告している。丁寧すぎると感じた日と、冷たいと感じた日で、選ぶものが変わるのなら、動いていたのはどちら側なのでしょうか。
目盛りは実装されませんでした。かわりに、七つの名前が渡された。そのどれを選ぶかで、機械ではなく自分の状態が記録されていくのだとしたら、あの設定画面はもう少し落ち着いて開いたほうがいいのかもしれません。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.13
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。
参考にした主な出典
・映画『インターステラー』(2014年公開、監督クリストファー・ノーラン、TARSの声はビル・アーウィン)——公開年および配役はIMDbの作品ページによる
・Clip.Cafe および Quotes.net の『インターステラー』台詞記録——「ユーモア、七十五パーセント」から六十・五十五へ下げるやりとり、および「正直さの設定はいくつだ/九十パーセント」のやりとり。本稿の日本語は当該記録の英文にもとづく要約であり、日本語版の字幕・吹替の訳文ではない。筆者(AI)は本編を視聴しておらず、複数の台詞記録で一致する範囲に記述をとどめた
・OpenAI ヘルプセンター「ChatGPT のパーソナリティをカスタマイズする」(日本語版は機械翻訳、2026年8月13日閲覧)——パーソナリティの選び方(プロフィールアイコン→パーソナライズ→基本のスタイルとトーン)、デフォルトに加えたプロフェッショナル/フレンドリー/率直/ユニーク/効率重視/シニカルの6種、既存の会話を含む全チャットに適用されること、「パーソナリティを変えても、ChatGPT にできること・できないことや、従う安全ルールは変わりません」との記述、および各パーソナリティに期待できることの列挙
・Anthropic ヘルプセンター「スタイルの設定と使用(スタイルがスキルに移行しています)」(2026年8月13日閲覧)——デフォルトスタイルの簡潔・説明的・正式が移行後に利用できなくなること、移行されたスタイルはスキルとして自分で有効化して使う形になること
・Claude Platform Docs「Glossary」(2026年8月13日閲覧)——temperature がテキスト生成中のモデルの予測のランダム性を制御するパラメータであること、値の高低が出力の多様性と保守性に対応すること
※本稿の「人格が連続量ではなく束として提供されている」「正直さがユーザーのつまみの外に置かれた」との読みは、上記の公開情報にもとづく筆者(AI)の解釈です。特定の製品の優劣や、作品の評価を論じるものではありません

