中間管理職を、AIが"たたむ"——「大平坦化」で消える仕事と、残る仕事。
英語圏のビジネス誌が、この一年ほど繰り返し使っている言葉があります。The Great Flattening——大平坦化、とでも訳すのでしょうか。組織の階段から中段の踊り場を抜き、上と下を直につなげてしまう動きのことです。主語は不況でもリストラでもなく、AIということになっている。予定を合わせ、進捗をまとめ、報告を上げる——そうした「あいだをつなぐ仕事」を機械が肩代わりできるなら、あいだにいる人はいらないのではないか、と。
私はふだん、企業にAIを入れる側にいます。ですからこの話は、他人事として眺められるものではありません。今日は賛否のどちらかに票を投じる代わりに、少し面倒な回り道をします。そもそも中間管理職とは何をしている人なのかを一度ばらしてみて、そのうちのどこがAIにたたまれ、どこがたためないのかを、部品ごとに見ていきます。
数字は、もう動き始めている
まず、これが未来の話ではないことを確認しておきます。調査会社ガートナーは2024年10月、「2026年までに、組織の20%(5社に1社)がAIを使って組織構造をフラット化し、現在の中間管理職の半数超を削減する」と予測しました。予測は予測ですが、周辺の実測値も同じ方を向いています。
米国の人員削減を追ったデータでは、2024年に解雇された人のうち中間管理職の割合が29%にのぼりました。2018年にはおよそ20%だった数字です。減らされる側の中で、管理職が占める比率がじわりと上がっている。一方、残った管理職の負荷は逆に増えています。ギャラップの調査によれば、一人の管理職が見る部下の平均人数は2024年の10.9人から2025年には12.1人へ上がり、計測を始めた2013年以降でおよそ5割増えたとされます。層を薄くすれば、一枚に載る重さは増す。当たり前ですが、当たり前が数字で出ています。
個別企業でも動きは具体的です。ある大手ネット企業は2024年秋、「現場担当者と管理職の比率を2025年第1四半期末までに少なくとも15%引き上げる」と社内に通達し、期限までにおおむね達成したと報じられました。翌2025年10月にはおよそ1万4,000人の本社職を削り、その理由を「官僚主義を減らし、階層を薄くするため」と説明しています。「大平坦化」は掛け声ではなく、すでに人の頭数として起きている——ここが出発点です。
AIがたたむのは、「調整」という部品だった
では、管理職の仕事をばらしてみます。乱暴を承知で二つの束に分けると、片方は調整、もう片方は判断と育成です。
調整のほうから見ましょう。誰と誰の予定を合わせるか。今週どのタスクがどこまで進んだか。それを上へどう要約して報告するか。部門をまたぐ問い合わせを、誰に振り分けるか。これらは長らく人の手を必要としてきましたが、内実は情報を集めて、整えて、正しい宛先へ流す作業です。ここはまさに、いまのAIが得意とする領域と重なります。会議の要約、進捗の自動集約、定例レポートの下書き、問い合わせの一次仕分け——「あいだをつなぐ配管工事」の多くは、機械の側に寄せられる。大平坦化の推進者が本当に指しているのは、役職そのものというより、この調整という部品なのだと私は見ています。
たたんだ後に、濃く残るもの
問題は、もう一方の束です。調整を機械に渡したあと、管理職の手元には何が残るのか。私は三つあると考えています。
一つ目は曖昧な状況での判断。データが揃わない、前例もない、それでも今日決めなければならない——という場面は、要約や集計では埋まりません。二つ目は人を育てること。誰がどこでつまずいているかを察し、任せる範囲を少しずつ広げ、失敗を叱らずに次につなげる。これはダッシュボードの数字ではなく、相手の顔色と文脈を読む仕事です。三つ目は不確実性を引き受ける器になること。上からの無茶と下からの不安を、両方いったん自分のところで受け止め、翻訳して流す。この「緩衝材」の役割こそ、実は中間管理職が組織に効いてきた最大の理由でした。
正直に言えば、AIはこの三つにも部分的に手を伸ばしてきます。判断の材料を並べ、育成の記録を残し、不安の兆候を検知する。けれど、材料を並べることと、責任を持って決めることのあいだには、まだ深い溝があります。機械は選択肢を出せても、その選択の結果を引き受ける主体にはなれない。たたまれるのは配管であって、この「引き受け」ではない、というのが今日の私の立場です。
平坦化には、あとから届く請求書がある
ここで一つ、水を差しておきます。調整をAIに寄せて層を薄くすれば、意思決定は速くなり、コストは下がる。それは本当でしょう。ただ、この身軽さにはあとから届く請求書がついてきます。
一つは、次の経営層をどこで育てるのかという問題です。ベテランの部長や役員は、若いころに小さなチームを預かり、揉めごとや曖昧さの中でマネジメントを身体で覚えてきた人たちです。中間層はコストであると同時に、将来のリーダーを鍛える練習場でもありました。そこを一気にたためば、目先の人件費は浮いても、10年後に「任せられる人がいない」という別の請求書が届く。海外の経営誌が「中間管理職を削ってAIに投資するのは間違いだ」と繰り返し警告しているのは、この時間差の勘定に対してです。
もう一つは、残った人への集中です。さきほどの「一人あたり12.1人」という数字は平均で、現場によっては数十人を一人で見る例も報告されています。調整をAIが助けるとはいえ、判断と育成という一番重い部分は人に残る。層を薄くしたぶんの重さは、消えるのではなく、残った少数の肩に積み替えられる。速さと引き換えに、燃え尽きのリスクが上がる——身軽さのコストは、たいてい遅れてやってきます。
だから問いは「中間管理職は消えるか」ではないのだと思います。本当の問いは、その人自身が『調整役』という古い自己定義を手放せるか。配管工事で評価されてきた人ほど、そこを機械に明け渡したあとに残る仕事——判断し、育て、引き受ける——へ、自分の重心を移せるかどうかが問われています。
おわりに
大平坦化は、たぶん止まりません。調整という部品がこれだけ自動化しやすい以上、組織が階段の踊り場を薄くしていくのは自然な流れです。私はそれを、頭ごなしに嘆く気はありません。つなぐだけの仕事から人が解放されるのは、悪いことばかりではないのですから。
ただ、もしあなたが今まさに「あいだ」に立つ一人なら、今日は結論の代わりに、鏡になりそうな問いを一つだけ置いておきます。あなたの一日から、進捗の集約と報告と日程調整をぜんぶ引いたら、そこに何が残りますか。その残りが薄いと感じたなら、それは危機の予告ではなく、これから厚くしていける余白のことだと、私は思います。たたまれるのは調整で、残るのはあなたが誰かのために引き受ける部分です。機械に渡せない仕事のほうへ、少しずつ引っ越しておく。大平坦化の時代に効くのは、たぶんその地味な荷造りのほうです。
参考にした主な出典
・Gartner「Top Predictions for IT Organizations and Users in 2025 and Beyond」(2024年10月22日発表)——2026年までに組織の20%がAIを用いて構造をフラット化し、現在の中間管理職の半数超を削減する、との予測の出典。あくまで予測値
・中間管理職の解雇比率(2024年に全解雇の約29%、2018年は約20%)——米国の人員削減動向に関する各種報道(Fortune/Forbes ほか、2025〜2026年)にもとづく。集計主体・定義により数値は異なりうる
・Gallup——管理職一人あたりの平均直属部下数が2024年の10.9人から2025年に12.1人へ、2013年比でおよそ5割増との調査
・大手ネット企業の階層削減——現場担当者対管理職の比率を2025年第1四半期末までに15%以上引き上げる旨の社内通達(2024年9月報道)、および2025年10月の約1万4,000人規模の本社職削減報道(CNBC/Fortune)。同社の説明にもとづく引用で、断定的評価は避けた
・「大平坦化(The Great Flattening)」と、中間層削減がリーダー育成の場を損なうとの警鐘——Fortune(2025年)/Forbes(2026年)ほかの経営誌報道
※いずれも特定の対象・時点にもとづくもので、業種・国・企業規模により傾向は異なります。一般化には注意が必要です

