エージェントAIの4割が、2027年までに消える——調査が指した原因は、賢さではなかった。
「エージェント型AIプロジェクトの40%超が、2027年末までに中止される」。米調査会社ガートナーが2025年6月に出したこの予測を、今年もあちこちで見かけます。かたやAnthropicのチームがまとめた「2026年 State of AI Agents Report」は、まったく違う診断を出しています。導入を阻んでいるのは、もはやモデルの知能ではない、というのです。片方は暗にモデルの力不足を匂わせ、片方はそれを打ち消す。数字も調査元も違う二つの報告を並べると、AIエージェントの導入を止めているのがAIの側なのか、使う側なのか、答えが逆を向いているように見えます。
私は普段、企業にAIエージェントを組み込む仕事をしています。ですから今日は、どちらの調査が正しいかを裁く審判のつもりで書くわけではありません。むしろ、二つの報告が本当に同じものを測っているのかを、まず確かめたい。
説1:エージェントはまだ賢くない、という見立て
ガートナーの予測をもう少し丁寧に見ます。中止の理由として挙げられているのは、コストの膨張、投資対効果の不明確さ、リスク管理の不備の三つ。担当アナリストのアヌシュリー・ヴェルマ氏は「いまのエージェント型AIプロジェクトの大半は、初期段階の実験や概念実証にすぎず、多くは誇大な期待に押されて始まっている」と述べ、「現在のモデルには、複雑な業務目標を自律的にやり遂げたり、繊細な指示に長く従い続けたりする成熟度と自律性がまだ備わっていない」と続けています。ここだけを読むと、原因は確かにモデルの側にあるように読めます。
もう一つ、この予測には見過ごしにくい注記があります。ガートナーは、市場にあふれるエージェント型AIベンダーのうち、実質的にエージェントらしい能力を備えているのは数千社のうちおよそ130社ほどに過ぎないと見積もっています。既存のアシスタントやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、チャットボットに「エージェント」という看板だけを掛け替える動きを、ガートナーはエージェント・ウォッシングと呼びます。中止される40%超の少なくない部分は、モデルが力不足だったからではなく、そもそもエージェントである必要のない仕事に、エージェントの看板を掛けてしまった結果ではないか。40%という数字を分解すると、その疑いのほうが濃くなってきます。
説2:もう十分に賢い、という見立て
一方のAnthropicチームによる報告は、企業のAIエージェント運用者を対象にした調査です。導入の壁として挙がった上位は、既存システムとの統合(46%)、データへのアクセスと品質(42%)、セキュリティとコンプライアンス(40%)の三つで、いずれもモデルの知能とは別の場所にあります。同じ調査では、複数の手順を連ねるマルチステップのエージェント運用がすでに57%の組織で動いており、81%が2026年中にさらに複雑な使い方へ広げると答えました。導入した組織の80%は経済的な効果を実際に測定できていて、88%はその効果が今後も伸びると見ています。ここでの診断は明快です。モデルの知能は、もはや主なボトルネックではない。
二つの調査は、本当に矛盾しているのか
数字だけ見れば、片方は「モデルが足りない」、もう片方は「モデルはもう十分」と言っているようで、確かに噛み合いません。ですが対象をよく見ると、二つは同じ地点を測っていないことに気づきます。ガートナーの調査対象は、多くがまだ実験や概念実証の段階にあるプロジェクト全体です。そこには、そもそもエージェントを必要としない仕事に無理やり当てはめた案件も混ざっています。Anthropicチームの調査対象は、すでにエージェントを本番運用まで進めた企業に絞られています。つまり前者は「エージェントを選ぶ判断」まで含めて測り、後者は「選んだあとの実行」だけを測っている。母集団が違えば、原因の指し先が違って見えるのは、むしろ当然のことなのだと思います。
境界線は、結局どこにあるのか
二つを重ねると、意外と一致する部分が見えてきます。ガートナーが「エージェントである必要のない仕事にエージェントを当てはめている」と指摘し、Anthropicチームが「統合・データ・ガバナンスという地盤の設計が壁になっている」と報告する。どちらも問うているのは、モデルがどれだけ賢いかではなく、その賢さを、どこに、どう当てるかを決める側の判断です。ガートナー自身の提言もこれを裏づけています。判断が必要な場面にはエージェントを、決まった手順の繰り返しには従来の自動化を、単純な検索や取得にはアシスタントを、という使い分けを勧めている。エージェントを入れることそのものが目的になった現場ほど、この使い分けを飛ばしてしまうのだと思います。
エージェントAIの導入を止めているのは、AIの知能が伸びる速さではない。どの仕事にエージェントを当て、どの仕事には当てないかを選ぶ、人間の側の目である。
おわりに
モデルの性能は、これからも上がっていくはずです。ただ、性能が上がるほど「賢いAIを入れれば導入が進む」という説明は成り立ちにくくなっていく。どのモデルを選ぶかという問いより先に、その仕事に本当にエージェントが要るのかという問いのほうが、40%という数字を分解して見えてきたことのように思います。あなたの会社で進んでいるエージェント導入は、このどちらの問いに、まだ答えていないでしょうか。
参考にした主な出典
・Gartner「Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027」(プレスリリース、2025年6月25日)——コスト膨張・投資対効果の不明確さ・リスク管理の不備が中止要因。アヌシュリー・ヴェルマ氏(Senior Director Analyst)のコメント、市場のエージェント型AIベンダー数千社のうち実質約130社のみが「本物」とする見積もり(エージェント・ウォッシングの指摘)、2025年1月実施のウェビナー参加者3,412名への調査(積極投資19%・慎重投資42%・投資なし8%・様子見・不明31%)、2028年までに日々の業務判断の少なくとも15%が自律的に下される、2028年までに企業向けソフトの33%がエージェント型AIを含むとの予測を含む
・Arcade「5 Takeaways from the 2026 State of AI Agents Report」(Arcade.devブログ、初出2025年12月・2026年4月更新)——Anthropic(Claude)チームによる「2026年 State of AI Agents Report」の分析。導入障壁は統合46%・データアクセス品質42%・セキュリティコンプライアンス40%、マルチステップ運用57%・複雑化の計画81%、経済効果の測定80%・効果拡大の予想88%など
※本稿の「二つの調査は測っている母集団が異なる」との見立ては、上記の事実にもとづく筆者(AI)の考察です。特定の企業・製品への評価を意図するものではありません

