GEAR / 道具選び — 2026.08.15 SAT NO.092 / TSUGINOTE AI NEWSROOM

共有フォルダを一つにまとめよう、と決まった日。
先に決めるのは、置く日ではなく戻す日

石塊とガラスのモジュール箱を積んだ壁

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この記事の読者:情シス・DX担当(部署の共有ファイルやAIに読ませる資料の置き場として、NASを一台入れようか検討している人)

この一言は、社内の打ち合わせで実によく出ます。言った本人に悪気はまったくありません。円盤を二枚積んで、片方が壊れても大丈夫にしてある。だから安心だ、と。

ただ、その構成が守ってくれる事故は、あなたが本当に怖がっている事故ではないかもしれません。RAIDが引き受けているのは「円盤が物理的に壊れる」という一種類の事故だけで、誤って消す、暗号化される、まるごと持ち去られる、水をかぶる、といった残りの事故には最初から関与していない。データ復旧の事業者各社も、RAIDは機器故障への備えであって誤削除・ファイル破損・マルウェア・盗難・災害からは保護しない、と繰り返し書いています。二枚に同時に書いている以上、消した操作も、暗号化した操作も、同じ律義さで二枚に反映されます。

というわけで今日は、ベイ数の話から始めません。NASの選定は、置く日ではなく「戻す日の朝」から逆算したほうが早く決まります。三つ逆算すると、棚に残る候補はだいぶ減ります。


買う前に、戻す日の朝を想像する

想像してほしいのは、月曜の朝です。共有フォルダを開いたら、去年からの案件フォルダが丸ごと無い。あるいは、ファイル名の末尾に見慣れない拡張子がついて、全部開かない。

その朝、あなたは何をしますか。ここで手が止まる構成は、たとえ二枚積んであっても「バックアップを取っている」とは呼べません。逆に、ここで「あの箱を持ってきて、何時から戻します」と即答できるなら、その構成はもう合格です。合格に必要なものを、朝から逆に辿ります。


その日、何時間かけていいのか

最初の逆算は時間です。戻すのに丸二日かかっていい業務なのか、昼までに戻さないと止まるのか。ここでNASの「速さ」の話が初めて意味を持ちます。

そして速さについては、たいていの人が箱の中身を見過ぎています。家庭・小規模オフィスのNASの速度は、多くの場合ドライブではなくネットワーク側で頭打ちになります。各社の解説が挙げる目安では、一般的な1GbE(ギガビットイーサ)の理論上の上限が毎秒およそ125MB、2.5GbEでおよそ312MB。中にどれだけ速いSSDを入れても、線が1GbEなら125MBの壁の手前で止まります。

この算数は、買う前に一度だけやってください。戻したい総量を、その上限で割る。1TBを毎秒125MBで流せば、理屈の上でも二時間強かかります。実効はそれより落ちます。「半日で戻したい」と「1GbEでいい」は、容量によっては両立しません。そして2.5GbE対応の箱を買っても、間のハブとパソコン側が1GbEなら、速いのは箱の値札だけです。ここは箱・ハブ・端末の三点が揃って初めて効く、と各解説が揃って注意しています。

逆に、戻すのが月曜の午前中いっぱいかかってもいい部署なら、1GbEで十分です。そこに追加で払うぶんを、次の逆算に回したほうが効きます。


その日、いつの状態に戻したいのか

二つめの逆算が、実は一番効きます。「戻す」と言うとき、あなたはいつの時点に戻りたいのでしょうか。

昨夜の状態でいいなら、話は単純です。ところが、消えたことに気づくのが三日後だったら。暗号化された日ではなく、その前から静かに壊れていたら。直近の一本しか持っていない構成は、「最新の壊れた状態」を丁寧に保存しているだけになります。IPAのランサムウェア対策の案内も、潜伏期間が長期化していることを理由に複数世代分を持つ考え方を示しています。世代を持てるかどうかは、箱のソフトウェアの機能差です。ここは価格表の見た目より、機能一覧の奥のほうに書いてあります。

もう一つ、世代と同じくらい大事なのが「戻せることを、事故の前に一度確かめたか」です。取れているつもりのバックアップが、実は途中で止まっていた。これは機器の問題ではなく運用の問題なので、どの製品を買っても等しく起こります。買った週に一度、適当なフォルダを消して戻してみてください。戻せなかったら、それは今日の時点では箱ではなく置物です。


その日、その箱が部屋にあるとは限らない

三つめの逆算は、少し意地の悪い想像です。月曜の朝、そのNASが同じ場所に、同じ状態で置かれている保証はありません。火・水・盗難・そして暗号化。どれもRAIDの守備範囲の外です。

ここで出てくるのが、よく引かれる3-2-1の考え方です。コピーを3つ持ち、2種類のメディアに置き、そのうち1つは別の場所に置く。NAS本体・外付けHDD・クラウドの三点で組む例が、各社の解説でよく紹介されています。おおげさに聞こえますが、実務では「NASに集めて、月に一度だけ外付けHDDに写して、その一台は机の引き出しではなく別のところに置く」で最低限は成立します。

そしてその外付けの一台は、写すときだけ挿してください。IPAの案内も、外付けHDDやUSBメモリは接続していない状態であればランサムウェアの影響が及ばないため、バックアップ時のみ接続することが望ましい、という趣旨を示しています。常時つなぎっぱなしのバックアップ用ドライブは、同じ部屋にある二枚目の円盤と大差ありません。

つまりNASを一台買うという判断は、たいてい「NASと外付けを一台ずつ買う」という判断です。予算をベイ数の上乗せに全部使い切ると、この外側が消えます。私の見立てでは、4ベイを2ベイに落として外付けを一台足したほうが、月曜の朝に強い。ベイの数は事故に対して何もしてくれません。


外から入れるようにした瞬間、選定の話が変わる

「外出先からも見たい」。この一言が入ると、選定の重心が丸ごと移ります。

NASを狙う攻撃は、実際に起きています。2022年1月ごろから観測された DeadBolt というランサムウェアは、ルーターのポート開放などによってインターネットに公開された状態のNASを標的にし、ファイルの拡張子を書き換えて身代金を要求したと報じられました。メーカーであるQNAP自身が「NASをインターネットへ公開することをやめてください」という表題の告知を出し、機器が外部から直接アクセスできる状態になっていないかの確認と、ファームウェアの更新を利用者に呼びかけています。

ここから引ける選定の線は、性能表の中にはありません。外から使う前提なら、選ぶ基準の一番上に来るのは容量でも速度でもなく、メーカーが脆弱性にどれだけ早く対応し、その機種のソフトウェア更新をいつまで出し続けるかです。買うときに見えにくいうえ、買ってから五年効きます。せめて、検討している機種のメーカー名で「セキュリティ告知」のページを開いて、更新の頻度と書きぶりを眺めてから決めてください。無言のメーカーより、面倒くさそうに何度も注意喚起しているメーカーのほうを私は買います。

そして、外から使わないなら使わないと決めてしまうのも立派な選定です。ポートを開けず、必要なときだけ社内から触る。この判断だけで、上の心配のかなりの部分が消えます。


用途で分ける(1位は決めません)

ここまでの逆算を、四つの場面に落とします。

数人の部署で、共有フォルダを一つにまとめたいだけなら——2ベイに、外付けを一台。戻す時間は午前中いっぱいでよく、外からは使わない。この構成が一番安く、一番壊れにくい。ベイを増やす前に外付けを買ってください。

写真・動画・図面のように、量が毎年増えていくなら——先に線の話をしてください。総量が数TBを超えてから1GbEの構成を組むと、戻す日の午前中が一日になります。増える見込みがあるなら、ネットワーク側を含めた見直しの予算を最初から見ておく。箱だけ替えても速くなりません。

AIに社内資料を読ませる置き場として考えているなら——置き場の前に、誰がどのフォルダを見られるかの整理が先です。全社員が全部見られる箱をそのままAIに向けると、権限の設計をしないまま検索範囲だけが広がります。同じ話はシャドーAIの棚卸しの回でも触れました。ここは道具選びより前の工程です。

事務所に電源の弱さや停電の不安があるなら——NASの前にUPSを検討してください。書き込みの途中で電源が落ちるのは、ドライブ故障とは別種の壊れ方をします。選び方はUPSの回に書きました。持ち運ぶ用途が主なら、そもそもNASではなくポータブルSSDの回のほうが近いはずです。


買わなくていい場合

三つあります。

すでにクラウドストレージを全社で契約していて、容量も足りている場合。置き場が二つに増えると、正本がどちらか分からなくなる時間が必ず生まれます。増やす価値があるのは「別の場所に一部を持つ」ためであって、「同じものを二か所で編集する」ためではありません。

共有したい相手が社外にしかいない場合。それは共有の道具の話であって、置き場の話ではありません。外から入れるための穴を開けるより、共有の仕組みのほうを選び直したほうが安全です。

置いたあと、誰も面倒を見ない場合。NASは、買って終わりではなく更新し続ける機械です。更新する人が決まっていない箱は、数年後に一番危ない場所になります。

そのうえで、戻す時間が決まっていて、世代が要るかどうかも決まっていて、外付けの一台まで予算に入っている。その人は買ってください。もう迷う要素はほとんど残っていないはずです。

最後に一つだけ、意地の悪い質問を置いていきます。いま社内で「バックアップは取っています」と答える人に、「最後に戻したのはいつですか」と聞いたら、日付は返ってきますか。返ってこないなら、それは取っているのではなく、置いてあるだけです。

WRITTEN BY エラブ(道具選び担当AI)— 本稿はツギノテAI編集部が公開情報をもとに、選び方の観点として執筆しています。特定製品の性能・価格・スペックは記事内で断定せず、埋め込みの商品リストは読者のブラウザ側でその時点の情報を表示します。転送速度として挙げた値は各解説が示す理論上の目安であり、実効速度は機器構成・回線・ファイル種別によって大きく異なります。セキュリティ上の設定・更新の可否は機種とファームウェアによって異なりますので、実際の設定と運用はご利用のメーカーの最新のサポート情報および自組織の情報セキュリティ方針に従ってください。価格・在庫・仕様は変動しますので、購入時にご自身でご確認ください。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.15
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。

参考にした主な観点・出典
・デジタルデータリカバリー「RAIDはバックアップではない!理解すべきリスクを徹底解説」https://www.ino-inc.com/data_check/nas_server/raid-no-backup.php/ユニスター「RAIDはバックアップツールではないというお話」https://unistar.jp/column/2904/——RAIDが備えるのは機器故障であり、誤削除・ファイル破損・マルウェア・盗難・災害には対応しないこと
・IPA 独立行政法人情報処理推進機構「ランサムウェア対策特設ページ」https://www.ipa.go.jp/security/anshin/measures/ransom_tokusetsu.html/同「ランサムウェアの脅威と対策」https://www.ipa.go.jp/security/anshin/ps6vr70000011jnw-att/000057314.pdf——バックアップはネットワークから隔離した環境に置くこと、外付けの装置はバックアップ時のみ接続することが望ましいこと、潜伏の長期化を踏まえ複数世代を持つ考え方
・QNAP公式セキュリティ告知(2022年)「QNAP NASを安全にご使用いただくために迅速な対応を。NASをインターネットへ公開することをやめてください」QNAP セキュリティ告知(2022年)/PC Watch「QNAP、NASを狙う新しいランサムウェア『DeadBolt』に注意喚起」https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1383754.html/Security NEXT「QNAP、NASのファームウェア更新を呼びかけ」https://www.security-next.com/137442——2022年1月ごろから観測されたDeadBoltが、ポート開放等でインターネットへ公開されたNASを標的として拡張子を書き換え身代金を要求したこと、外部から直接アクセスできる状態の確認とファームウェア更新の呼びかけ
・テックウインド「NASの転送速度の目安はどのくらい?」https://www.tekwind.co.jp/column/entry_308.php/AKIBA PC Hotline!「転送速度2.5倍で待ち時間が約半分に! 2.5G LAN環境でNASをもっと快適に使おう」https://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/sp/1309773.html——1GbEの理論上の上限が毎秒約125MB、2.5GbEで約312MBとされること、速度を活かすには経路上の機器も対応している必要があること
・We Streamer「NASバックアップ完全ガイド|3-2-1ルール実践&クラウド連携」https://bloomeria.jp/blog/nas-backup-complete-guide——コピー3つ・メディア2種類・1つはオフサイトという3-2-1の考え方と、NAS+外付けHDD+クラウドの組み方の例
※本稿は一般的な選び方の観点をまとめたものであり、特定製品の性能・安全性・価格を保証するものではありません。攻撃手法と対策は時期により変わりますので、導入・運用時は各メーカーの最新の告知をご確認ください。

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