AIで浮いた時間、
5つの病院が5通りに数えていた。
この記事の読者:経営・管理職(他組織の「年間◯時間削減」を根拠に、自社の投資と体制を決めようとしている人)
稟議に貼られる数字は、たいてい大きいほうが選ばれます。「年間5,472時間」と「月間約50時間」が並んでいれば、前者が資料に載ります。
私は本紙のAI導入事例の台帳から、業務が同じものだけを抜き出しました。医療文書の下書きを生成AIに書かせるという一点で揃えた5つの病院です。退院サマリー、紹介状、初診カルテ、診断書、議事録。どれも「人が書いていた文章の初稿をAIが出す」という、業種が違っても輸入しやすい使い方です。
並べて分かったのは、削減幅の大小ではありませんでした。5件が、時間を5通りに数えていたということです。
5件が数えた「時間」
1件目:東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科(2023年12月公表)。 「アプリケーションの利用により紹介状1件当たりの作成時間の47%削減(平均16分15秒から8分40秒に削減)を確認できました」。数え方は対照つきの実測です。試作アプリを使わず電子カルテだけで書いた場合と、使った場合の作成時間を計測して比べています。母数は医師10名、期間は2023年10〜11月。同じ原典にある「年間63時間削減できる見込み」は、原典自身がモデルケースでの試算と書いています。
2件目:岡山旭東病院(2026年3月公表・214床)。 「検証段階での所要時間の実測では、外来紹介状10分→3分(約70%短縮)、看護サマリー30分→10分(約70%短縮)、リハビリ情報提供書30分→10分(約70%短縮)、病状説明記録20分→5分(約75%短縮)、議事録作成20分→5分(約75%短縮)を記録」。数え方は文書種別ごとの実測。対照群は置かず、文書の種類を分けて測っています。そして年間へは伸ばしていません。何件測ったか、期間はいつかは非開示です。
3件目:九州がんセンター(2026年7月公表・国立病院機構)。 「1患者あたりの入力作成時間が平均22分から12分へと10分短縮され、月間新患約300件換算で月間約3,000分(約50時間)の業務時間を創出」。数え方は1件あたりの差×月間件数です。同院の成果表には「年間換算で約600時間以上削減」とも書かれています。掛け算の段が1つ増えたことが、原典の書き方からそのまま読めます。
4件目:長野市民病院(2026年4月公表・400床)。 「退院サマリーのドラフト作成:1人あたり平均10分 → 25秒へ短縮」。そして「年間5,472時間(月間約456時間)」。ここが本稿でいちばん大きい数字です。原典は算出の条件を自分で開示しています。対象は「積極的に活用する職員111名」、実績期間は2025年4月〜2026年1月の10か月。効果の集計はアンケートによる導入前後の削減時間に、各アシスタントの実行回数を掛ける形です。つまり申告値×回数の年換算で、掛け算の段は3つ。
5件目:戸畑共立病院(2025年8月公表)。 「診断書1件あたりの作成時間を約40分から約20分へと50%削減、月間で約130時間(1人あたり月間約5時間)削減」。数え方は前後比較だが算出方法は非開示です。どう測ったか、いつ測ったか、母数がどれだけかは書かれていません。診断書は月約400件・25名で対応という前提だけが読めます。
数字が大きくなるのは、段が増えたときだけ
5件を並べると、削減時間の桁は「掛け算を何段したか」でほぼ決まります。1件あたりの短縮幅は、10分前後から9分35秒(10分→25秒)まで、実はどの病院もそう変わりません。
ここから、稟議に貼るときに効く見方が1つ出てきます。数字の大きさと、その数字の確かさは無関係です。
本稿でいちばん大きい5,472時間は、掛け算の段が最も多い数字です。ふつうなら最も疑うべき値です。ところが原典は、算出方法(アンケートの前後比較×実行回数)、対象(積極活用者111名)、期間(10か月の実績)を自分で書いています。読み手が分母を確かめられる数字です。111名という母集団が病院全体に偏りなく広がるとは限らない、10か月を12か月に伸ばした、という留保も読み手が自分で付けられます。
逆に、5件のうち算出方法が書かれていないのは戸畑共立病院の「月間約130時間」です。数字は小さく、前後比較という枠組みも明快で、稟議には通りやすい。しかし何をどう測ったかが分からないので、自社に当てはめる計算ができません。小さくて確かめられない数字より、大きくて確かめられる数字のほうが、判断には使えます。
この読み替えは、削減率をそのまま信じることの逆側にも効きます。以前、「最大97%削減」の97%が何の97%だったのかを分解しました。あのときの結論と今回の結論は、同じ場所を指しています。見るのは削減幅ではなく、分母です。
留保:5件はいずれも「うまくいった話」である
この5件は、公表されたという事実によって選ばれています。導入して効果が出なかった病院はプレスリリースを出しません。台帳に反証として載っている事例が62件中2件しかないのは、そういう選ばれ方の結果です。5件の数え方の比較は成立しますが、5件から「医療文書のAI下書きは成功する」とは読めません。
もう1つ。5件について、私が逐語で数値を確認できた文書は、いずれもベンダー側が出したものでした。東北大学病院の値はNECの技術報告に載ったもので(病院側も同事例を公表しています)、残る4件はユニリタとUbieのリリースです。病院名・役職者コメント・具体的な数値が入っており、本紙の収録基準は満たしています。それでもどの数字を選んで出すかを決める立場にあるのは、導入した側ではなく提供した側だという条件は、額面を見るときに引いておくべきものです。
そのうえで、Ubieの事例が3件を占めています。文書種別ごとの実測、1件あたり×件数、方法非開示という数え方の違いは、同じベンダーの発表のあいだでも揃っていません。算出方法はベンダーが統一しているのではなく、導入した組織ごとに決めていると読めます。自社が公表する側になったときも、この形式は自分で決めることになります。
自社で何から測るか
持ち帰りは1つです。1件あたりの前後差を、10件でいいので自分で測ってください。
5件のうち、対照つきの実測をしたのは東北大学病院の1件だけでした。それでも同院が測ったのは医師10名・2か月です。件数を掛け、期間を伸ばす作業は誰でもできます。表計算ソフトの掛け算で済みます。できないのは、自社の1件あたりが何分から何分になるかを知ることだけです。ここを他社の公表値で代用すると、その後の全部が他社の数字になります。
そして稟議に貼るのは2行にしてください。1行目に「1件あたり何分から何分へ」、2行目に「掛けた件数の出どころ」。この2行が書けない数字は、社内で誰かが必ず「それは何の何%か」と聞きます。聞かれてから調べ直すより、先に2行にしておくほうが早く進みます。年間の合計は、その2行から自動的に出ます。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.06
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。
参考にした主な出典
・NEC技報「大規模言語モデルを活用した医療文書作成支援」(jpn.nec.com、2023年12月)——東北大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科での実証、紹介状1件あたり平均16分15秒から8分40秒へ47%削減、医師10名・2023年10〜11月、年間63時間はモデルケースの試算である旨
・Ubie「ユビー生成AI」導入事例(intro.dr-ubie.com、2026年3月)——岡山旭東病院での所要時間の実測値5種(外来紹介状・看護サマリー・リハビリ情報提供書・病状説明記録・議事録)
・Ubie プレスリリース「九州がんセンター、『ユビー生成AI』で業務改革を実現」(prtimes.jp、2026年7月2日)——初診時カルテ入力が平均22分から12分へ、月間新患約300件換算で月間約3,000分(約50時間)、年間換算で約600時間以上、議事録作成の労力70%削減、AIの出力は下書きとし最終確認は医療職が行う運用原則
・ユニリタ プレスリリース「長野市民病院がユニリタのセキュア生成AI『SecuAiGent』で年間5,472時間を創出」(unirita.co.jp、2026年4月16日)——退院サマリーのドラフト作成が1人あたり平均10分から25秒へ、チーム医療における情報収集が患者1人あたり約30分から約3分へ、積極活用職員111名を対象とした2025年4月〜2026年1月実績で年間5,472時間(月間約456時間)
・Ubie プレスリリース(prtimes.jp、2025年8月)——戸畑共立病院での診断書1件あたり約40分から約20分へ50%削減、月間約130時間削減、診断書は月約400件・25名で対応
※ 数え方の分類(対照つきの実測/文書種別ごとの実測/1件あたりの差×件数/申告値×回数の年換算/算出方法非開示)は、上記各原典の記述に基づく本紙の整理です。編集部は各院のシステムを実機で操作していません。
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