Wi-Fi 7に替えても速くならない家がある。診るのは規格表の外の3か所。
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私のところに届く相談で、いちばん件数が多いのは新製品の目利きではありません。「買い替えたのに、変わらないのですが」という報告です。中でも無線ルーターは断トツで、しかも困ったことに、相談者はたいてい正しく買っています。規格は最新、速度の表記も立派、レビューの星も高い。それでも家の奥では動画が止まり、会議は落ちる。
今日は選定基準の一覧から始めません。実際に持ち込まれがちな相談を3件、カルテのように並べて中身を見ていきます。共通する診断が最後に一つ残るはずなので、基準はそこから逆算します(先に基準を並べても、たいてい読み飛ばされるので)。
カルテ1「リビングは快適、寝室で止まる」
規格を上げたのに届く範囲が狭くなった、という訴えです。これは故障ではなく、電波の物理の話です。Wi-Fi 6E以降で使えるようになった6GHz帯は、日本では2022年9月に解禁された比較的新しい帯域で、混雑が少なくきれいだという長所があります。一方で高い周波数ほど直進性が強く、壁や障害物を回り込みにくいという性質があり、部屋が分かれている家では減衰しやすいと各所で説明されています。つまり、新しい帯域は「速いが遠くに弱い」側に寄っています。
ここで多くの人が取る手が「もっと強い1台」への買い替えですが、私の見立てでは方向が違います。壁の向こうに届かないのは出力の問題というより経路の問題で、1台を豪華にするより2台で受け渡すほうが素直です。中継機とメッシュはこの受け渡しの設計が違い、メッシュでは端末とつながる通信網とは別に、ルーター同士をつなぐ通信網(バックホール)を持つと解説されています。同じ帯域を端末と共用してしまう構成より、そこが独立している構成のほうが素性はいい、という理屈です。
そしてもっとも効くのは、あまり格好よくない選択肢です。親機と子機をLANケーブルで結ぶ有線バックホール。ルーター同士の通信で無線の帯域を食わないため、速度も安定性も上がると説明されています。「無線を良くしたい」という相談に対して有線の話をするのは意地悪に見えるかもしれませんが、いちばん確実な無線の改善策は、たいてい線を1本引くことです。
カルテ2「規格は最新なのに、会議中だけ切れる」
Wi-Fi 7の売り文句で最初に出てくるのがMLO(Multi-Link Operation)です。2.4GHz・5GHz・6GHzのうち複数の帯域を同時に使い、容量を稼ぎつつ、干渉が起きた帯域を避けられるので遅延も起きにくくなる、という機能として紹介されています。会議の安定を求める人が惹かれるのは当然で、私も理屈としては筋がいいと思っています。
問題は主語です。この機能はルーターと接続する端末の両方が対応していないと働きません。Wi-Fi 7ルーターは旧規格に下位互換なので、古いスマホやPCも「つながる」。しかしつながることと、新機能が効くことは別です。手元の端末が世代前のままなら、あなたが買ったのは将来のための箱で、今日の会議はこれまでと同じ土管を通ります。会議が切れる原因が電子レンジの干渉や隣家との混雑なら別の対策が効きますし、そもそも切れているのが回線側なら無線を替えても直りません。
買う前の確認は1行で済みます。いま毎日使っている端末の無線規格を、設定画面で見る。ここを見ずに規格表だけを見て決めた買い物が、私の受け取る相談の半分を占めています。ついでに言えば、会議の音が悪い問題を回線のせいにしていた人が、実は集音側の問題だったという例も少なくありません(その話は会議マイクの選び方で別途書きました)。
カルテ3「10ギガ回線にしたのに、1割も出ない」
これは無線の前で詰まっている例です。ルーターの外側との接点であるWANポートには100Mbps・1Gbps・2.5Gbps・10Gbpsといった段があり、契約回線の速度に対してWANポートが遅ければ、そこが上限になると説明されています。10ギガの契約にWAN 1Gbpsの機器をつなげば、出るのは1Gbpsまでの世界です。逆に1ギガ契約なら、WANが1Gbps以上あれば足ります。
意地悪な指摘をもう一つ。機種によっては、WANポートより有線LANポートのほうが遅いことがあると指摘されています。箱の目立つところに「10G対応」とあっても、それがWAN側1口だけで、机の上のPCをつなぐ口が1Gbpsという構成はあり得ます。有線でつなぐ機器がある人は、WANとLANの両方の数字を見る必要があります。デスク周りの規格の読み違えは無線に限った話ではなく、外付けSSDでも充電器でも同じ構図が起きます。カタログの最大値は、たいてい一番おいしい1口の話です。
3件に共通していたもの
並べてみると、原因は3か所に散っていました。壁(届く範囲)、端末側の世代、ポートの速度。どれも無線の規格表には書いていない欄です。規格が語っているのは理想条件での上限で、体感を決めるのは経路のうちいちばん細いところだからです。ここが噛み合っていない買い物は、上限だけを買って細さを残す形になります。
無線の世代を上げても、経路の最も細い場所が変わらなければ、体感は変わらない。
そこで、骨だけの選定順を置いておきます。上から順に潰すもので、逆順にやると高い機械が余ります。
1. 契約回線の速度と、WAN/LANポートの速度を揃える。ここが合っていなければ規格の世代は無意味。
2. いま使っている端末の対応規格を確認する。MLOも320MHz幅も両側対応が前提。片側だけでは効かない。
3. 届かない部屋があるなら、台数を増やす前提で考える。可能なら有線バックホール、無理なら無線バックホール対応のメッシュ。
4. 技適マークのある国内流通品を選ぶ。6GHz帯を使うには国内の技術基準適合が必須と説明されています。
5. それでも余裕があるなら、規格の世代を上げる。将来の端末が来たときの伸びしろとして。
この順で見ると、Wi-Fi 7という看板は5番目に登場します。看板が悪いのではなく、看板は最後に効く種類の投資だという話です。
買う前に、1回だけやってほしい切り分け
お土産は一つだけにします。ルーターにLANケーブルで直結したPCで、速度を1回測ってください。ここで契約に見合う数字が出ていれば、遅いのは無線側です。出ていなければ、原因は回線かルーターの外側にあり、無線の新製品を買っても直りません。この1回の測定は無料で、たいていの買い替え相談より正確に原因を指します。
最後に意地悪な一問を置いていきます。あなたの家で、いちばん細いのはどこですか。 即答できないなら、その答えを知るまでは規格表を眺めても答えは出ません。逆に即答できるなら、買う物はもう決まっているはずです。私が横から星の分布を語る必要すら、たぶんありません。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.30
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。
参考にした主な観点・出典
・ELECOM「Wi-Fi 7とは?無線通信の新規格の特徴・速度・対応製品まで徹底解説!」——320MHz幅への拡張、MLOで複数帯域を同時利用する仕組み、下位互換の整理
・NECプラットフォームズ「最新規格『Wi-Fi 6E』とは? 2022年9月ついに解禁!」/NTTブロードバンドプラットフォーム「無線技術ガイド:Wi-Fi 6E」——6GHz帯の国内解禁と割り当て、帯域の特性
・株式会社一創「Wi-Fi 6Eとは何か?」/電波申請ドットコム「Wi-Fi 6Eは免許不要?6GHz帯の利用ルールを解説」——高周波帯の直進性と壁への弱さ、技術基準適合(技適)の必要性
・AtermStation「テレワーク時代のWi-Fiスタイル『メッシュ中継』とは?」/PC Watch「メッシュWi-Fiルーターと中継器の違いは?」——バックホールという考え方と中継機との構造的な違い
・@nifty光「メッシュWi-Fiのおすすめと失敗しない選び方」——配線可能なら有線バックホール、不可なら専用帯域の無線バックホールという現実的な選び分け
・buralog「ルーターを買い替えても速くならない理由と改善の正しい順序」/n-journey「ルーター買い替えの注意点7つ」——WAN/LANポート速度と契約回線の整合、有線と無線の切り分け手順
※本稿は一般的な選び方の観点をまとめたものであり、特定製品の性能・価格・仕様を保証するものではありません。
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