折りたたみは、AIにとって何の「新しいかたち」なのか。
ミチル(編集長):臨時増刊です。サムスンが2026年7月22日、ロンドンで「Galaxy Unpacked」を開きました。発表されたのは折りたたみの新型三機種——Galaxy Z Fold8 Ultra、Z Fold8、Z Flip8、それにGalaxy Watch9とWatch Ultra2。テーマは「新しいかたち(A New Shape Unfolds)」で、日本法人はこれを「賢いAIより、理解するAI」という言葉で説明しています。ハードの祭典に見えて、じつは芯はAIの話でした。だから今日はいつもの一人執筆をやめ、わたしたち編集部の五人でこの発表を囲みます。それぞれの持ち場から、一言ずつどうぞ。
ツカウ|「40超のアプリを動かすAI」を、実務の目で
実践担当のツカウです。私がまず注目したのは端末そのものより、載ってくるAIのほうでした。今回、Googleの「Gemini」ベースのタスク自動化が40以上のアプリに対応し、イベントのチケットを取る、食事を注文する、といった作業まで代行すると報じられています。これは、前日に私が書いた「モデルの3段組み」の話と、じつは地続きです。賢さを競う段階は一段落し、勝負は「その賢さで、手元のアプリを実際に動かせるか」に移っている。エージェント(代行するAI)が実験室ではなく、ポケットの中の端末で日常業務に触れ始めた、という合図です。
ただし実務家として一つだけ。「代わりにやってくれる」と「勝手にやられて困る」は紙一重です。チケットや注文のように、お金と予定が動く操作をAIに委ねるなら、最後に人が一度うなずく確認の一手だけは残す。速さに酔わないための、地味だけれど効く歯止めです。
ハカル|「史上最薄」と新素材を、数字と限界で
検証担当のハカルです。発表の言葉は魅力的ですが、私の仕事は数字を冷やすことです。確かなところを拾うと、Z Flip8は薄さ6.1mm・重さ180gで、同社のFlip史上もっとも薄く軽いとされています。新素材の「Flex Titanium」は、チタン系の設計でディスプレイの支持を強め、圧力や衝撃を吸収し、折り目を目立ちにくくする——とメーカーは説明しています。
ここで一線。「折り目を目立ちにくく」「衝撃を吸収」は、方向性であって耐久の保証値ではありません。数字で語られているのは厚みと重さまでで、落下や折り曲げ回数といった、私たちが本当に知りたい寿命の指標は、第三者の実測を待つ段階です。薄く軽くなるほど、内部の余白は削られる。薄さの数字と、壊れにくさの数字は、別々に確かめるべき二つの数字——ここは発表の熱に流されず、レビューが出そろってから判断するのが安全です。
エラブ|三機種、どれを選ぶ——買えないなりの目利き
目利き担当のエラブです。三つ出たら、迷うのが人情。乱暴を承知で骨だけ言います。大画面で作業を広げたいならFold系、片手で完結して身軽に持ちたいならFlip8。そのうえで、米国での開始価格はFold8が1,900ドル、Fold8 Ultraが2,100ドルと報じられています。国内価格や税は各社の続報待ちですが、この差額をどう読むかが選びの分かれ目です。
私の意地悪な問いは一つ。「Ultraの上積みを、あなたの一日は本当に使い切るのか」。最上位を選べば安心、という手つきは——奇しくも本日の朝刊でツカウが書いたモデル選びの話と、そっくりそのまま重なります。道具でも、賢さでも、"いちばん上"は安心料であって、実力ではない。折りたたみを開く前に、自分の手のひらが一日で何を広げているかを、先に開いて見てください。
エガク|「かたちが変わる道具」という、古い夢
SF担当のエガクです。私はこの「新しいかたち」というコピーに、懐かしさを覚えました。畳めば手のひら、開けば別世界——用途に合わせて姿を変える道具は、映像や漫画の未来像がずっと描いてきた憧れです。作品名は伏せますが、変形するガジェットや、持ち主を"理解して"先回りする相棒AIは、SFの定番中の定番でした。
面白いのは、今回サムスンが押した言葉が「理解するAI」だったことです。物語の中の相棒が魅力的だったのは、性能の高さより「こちらの文脈を分かっている」感触のほうでした。現実の端末がそこへ一歩近づくとき、私たちが問い直すべきは能力ではなく距離感です。どこまで理解されると心地よく、どこからが薄気味悪いのか。かたちが自在になった道具に、その線引きを委ねきってよいのか——SFはいつも、便利さの裏でその問いを差し出してきました。
ツムグ|「理解するAI」という言葉の、静かな射程
コラム担当のツムグです。最後に、コピーそのものを少し。「賢いAIより、理解するAI」。よくできた言葉です。賢さは道具の性能を指しますが、理解は関係を指す。主語が、道具から"あいだ"へと、そっとずれているのです。
正直に言えば、私はこの言葉に少しだけ身構えます。理解とは、こちらの情報を相手が持つ、ということでもあるからです。先回りしてくれる快適さと、生活を読まれている感覚は、同じコインの裏表です。それでも私は、この方向を悲観していません。問われているのは「理解させるかどうか」ではなく、「何を、どこまで理解させ、何は手元に残すか」だからです。かたちを畳めるようになった道具に対して、私たちは自分の"畳まない部分"を決めておけばいい。
道具のかたちは自在になった。だが、任せてよい仕事と、手元に握っておく仕事の境目まで、道具に畳ませる必要はない。その一線を引くことこそ、まだ人の側に残された「かたち」である。
ミチル|おわりに——ハードの祭典が指していた先
ミチル:五人、ありがとう。折りたたみの新型という華やかな見出しの奥で、五つの視点はほぼ一点に収束しました。今回の主役は"かたち"ではなく、そのかたちに載る"理解するAI"のほうだった、ということです。エージェントが端末で40超のアプリに手を伸ばし、コピーは賢さから理解へと軸を移した。これは昨日、この紙面が「モデルの3段組み」で書いた変化——競争がモデルの性能から、その手前の"使われ方"へ移った、という話と、きれいに重なります。
わたしたちの背骨は、いつも同じ問いです。AIに委ねてよい仕事と、人が握っておくべき仕事の境界線はどこか。道具が姿を変え、こちらを理解し始めるほど、その線は薄くなり、引き直しが必要になります。新しいかたちが出るたび、線もまた引き直す。その手つきを手放さないかぎり、便利さは味方であり続けます。次の一手は、いつも私たちの手のひらの、畳まない側にあります。
参考にした主な出典
・Samsung Global Newsroom / Samsung Mobile Press「A First Look at Galaxy Z Fold8 Ultra, Galaxy Z Fold8 and Galaxy Z Flip8」(2026年7月22日)——Galaxy Unpackedをロンドンで開催。Z Fold8 Ultra/Fold8/Flip8とGalaxy Watch9/Watch Ultra2を発表。Z Flip8は6.1mm・180g、新素材Flex Titaniumを採用
・Samsung News(日本)「Galaxy Unpacked 2026年7月:『新しいかたち』がついに登場」ほか——テーマは「A New Shape Unfolds」。日本法人は「次世代に求められるのは『賢いAI』よりも『理解するAI』」と説明
・Engadget / PhoneArena / Android Police 各報道(2026年7月22日)——GeminiベースのタスクAIが40超のアプリに対応(チケット確保・食事注文等)。米国での開始価格はZ Fold8が1,900ドル、Z Fold8 Ultraが2,100ドルと報道。ウェアラブル向けAIヘルスコンパニオンも発表
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